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広島家庭裁判所 昭和56年(家)1635号 審判 1982年5月08日

申立人 土井富佐子

相手方 土井智

主文

一  相手方は申立人に対し、婚姻費用分担として昭和五七年五月から申立人と同居又は婚姻解消に至るまで一箇月金二七万円宛を毎月末日限り申立人方に持参又は送金して支払え。

二  相手方は申立人に対し、金一〇二万円を本審判確定の日を含む月の末日限り申立人方に持参又は送金して支払え。

理由

一  申立の趣旨

相手方は申立人に対し生活費(子の養育費を含む)として相当額を支払え。(昭和五六年一一月二六日の調停期日における申立の趣旨の変更により、当初の同居請求の申立は撤回された。)

二  申立の実情と要旨

(イ)  申立人と相手方とは、昭和四五年四月六日、婚姻届出をした夫婦であるが、同四六年二月九日長男明が、同四七年二月一六日長女沙織が出生した。

(ロ)  相手方は、○○大学医学部卒で、同四五年一〇月、医師国家試験に合格し、各地の病院勤務の後、同五三年一一月、広島市内において、○○内科医院を開業し、申立人は、同医院の会計を担当し月額手取金二七万円の給与を得て、これを家族の生活費にあてていた。

(ハ)  相手方は、以前勤務していた病院の看護婦と深い関係があり、開業当初から同女を看護婦として雇つていたことから、同女との関係を絶つよう要求する申立人との間に風波が立ち始め、同五四年九月一九日、同看護婦の自殺未遂事件がおこり、同年一〇月五日、相手方は家を出て、申立人母子と別居するに至つた。

(ニ)  同五五年一月、相手方から離婚調停の申立がなされたが、これは同年二月一四日不成立に終つた。

(ホ)  同五六年九月二〇日、申立人と相手方との新居が完成し、申立人母子三名は右新居に入居したが、相手方は入居せず、依然として別居を続けている。

(ヘ)  相手方は、同五四年一〇月以降は、申立人に対し生活費として月額金一〇万円を仕送りするのみであり、このため申立人母子の家計は月額約二〇万円余の赤字が生じ、申立人は、臨時に働いたり、親族から借金するなどして補てんしている。

申立人母子三名の家庭の必要経費としては、通常の家計費として月額金三一万円のほか、子供の塾費用、子供の旅行積立金、建物維持費、備品維持費、家庭基金等として月額金三〇万円、合計月額金六一万円が必要である。

相手方は開業医として高額の収入を得ており、少くとも年額金一、一二六万円の可処分所得を得ているので、申立人母子三名の家庭の必要経費月額金六一万円を負担するに十分な余力がある。

三  当裁判所の判断

(イ)  本件記録及び別件の当庁昭和五五年(家イ)第一七号離婚等調停申立事件記録を総合すると、上記申立の実情の要旨欄記載の(イ)ないし(ホ)の各事実を認めることができるほか、申立人は○○内科医院の会計事務担当者として、昭和五三年一一月から同五四年七月まで手取りで月額金二七万円の給与の支給を受けていたこと、ところが、申立人が同医院の会計事務を担当したのは同五四年一月までであつて、同年二月以降は同医院の会計事務を担当していないこと、相手方は申立人に対し、上記給与のほか必要の都度一〇万、二〇万と生活費を支給していたこと、相手方は、昭和五四年六月から七月にかけて、申立人と一時別居したことがあるが、その間も上記給与は支給し続けたこと、別居後である昭和五六年一〇、一一月における申立人の平均家計実支出月額は金二三万四、八五三円で、あること、申立人の収入としては、相手方から送金してくる月額金一〇万円の生活費のみであり、申立人は現在就労していないこと、相手方は開業医として働き、昭和五六年度における月額平均可処分所得額は少くとも金五〇万七、五二〇円を下らないこと、資産としては、広島市西区○○○×丁目××番×××、宅地×××平方メートルと同地上の家屋番号××番×××、木造スレート葺二階建住宅、一階××・××平方メートル、二階××・××平方メートルが存するが、前者は申立人が四分の一、相手方が四分の三の各持分を有する共有であり、後者は、相手方の単独所有となつていること、以上の各事実を認めることができる。

(ロ)  そこで、誰が、いくらの婚姻費用を分担すべきかにつき検討するに、申立人は現在いずれも小学校在学中の二子を養育している関係上、就労して所得を得ることは不可能な状態にあり、またその有する資産も、相手方との共有でしかも現に自らが居住している建物の敷地であるから、申立人がその収入、資産によつて婚姻費用を分担することはできない状況にあるというべきである。これに対して相手方は、開業医として少くとも月額金五〇万七、五二〇円を下らない可処分所得を得ているから、これらの事情を勘案すると、相手方において婚姻費用を分担すべき義務があることが明らかである。

次に分担すべき金額につき検討するに、前記認定のとおり、申立人は、○○内科医院の会計事務担当者でなくなつた後も月額金二七万円の支給を受けていたのであるから、これはいわゆる生活費としての性質を有していたものと考えるのが相当である。しかも、相手方は、必要の都度別途に生活費を支給じていたことや、一時別居中にも月額金二七万円の支給を続けていたことなどに徴し、上記金二七万円は、実質的には申立人母子三名の生活費としての性質を有していたものと認めるのが相当である。

従つて、申立人母子三名が、相手方と同居当時の生活と同等程度の生活水準を維持しようとすれば、月額金二七万円程度の生活費を必要とすることが明らかであり、他方相手方には前記のとおりの可処分所得があり、しかも自らの意思で申立人に対し月額手取り金二七万円を支給し続け、それが申立人母子三名の生活費に充てられていることを容認してきたとみうるのであるから、相手方としても、従前と同金額を婚姻費用として分担支出することは容易に可能であると認められる。

このようにして、本件においては、申立人が相手方と同居中になしていたのと同程度の生活を保持しうるに足る額である金二七万円を基準額とするのが最も合理的であると考えられ、かつ別居に至つた事情を双方につき勘案してみても、この基準額を大きく増減修正すべき理由があるとは断じ難い。

(ハ)  そうすると、相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担として月額金二七万円を支払うべき義務があることになる。

そして、申立人が、申立の趣旨変更によつて本件婚姻費用分担の請求の意思表示をしたのが、昭和五六年一一月二六日であるから、前記支払義務の始期は同五六年一一月分からということになる。そうなると、同五六年一一月分から同五七年四月分までの六箇月分は既に履行期が到来していることになるが、前記認定事実に徴すると、毎月金一〇万円宛は履行済みと推認しうるので、差引計算すると、履行期が到来してなお未払分は合計金一〇二万円となる。

従つて、相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担として昭和五七年五月から申立人と同居又は婚姻解消に至るまで月額金二七万円宛を毎月末日限り申立人方に持参又は送金して払うべきであり、また既に履行期が到来している未払分合計金一〇二万円の支払をなすべき義務があることになる。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 増田定義)

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